SAAJ近畿支部第149回定例研究会報告(ISACA大阪支部合同) (報告者:ISACA大阪支部 今本憲児)

ISACA大阪支部 今本憲児

1.テーマ   地域情報化と防災
 ~CATVネットワークを利用した緊急告知と地方公共団体のICT-BCPの現況~
2.講師    ㈱嶺南ケーブルネットワーク 顧問(情報通信担当) 川端 純一 氏
3.開催日時  2014年12月13日(土) 15:00~17:00
4.開催場所  大阪大学中之島センター 3階 講義室301
5.講演概要

2014121301巨大地震や異常気象などの災害に強いまちづくりのポイントとなるのは、①自助、②近助、③共助、④公助、の4つである。特に災害発生直後においては、自分の身は自分で守り(①自助)、向こう三軒両隣が相互に助け合い(②近助)、自主防災組織を組織して地域ぐるみで助け合う(③共助)、といった近隣の人たちの連携(地域防災)が、最も重要になってくるが、それをサポートするのが④公助になる。
地方公共団体による、災害による市民の被害を最小にするための、迅速で正確な、市民のライフスタイルに合わせた多様な情報伝達も④公助の1つである。今回はその事例として、(1)敦賀市地域防災情報システムについて、ご紹介いただいた。また、地方公共団体における(2)業務継続計画(BCP)の策定について、ご講演いただいた。

(1) 敦賀市地域防災情報システムの紹介

・ 福井県は民放テレビが2社しかないため、ケーブルテレビ(CATV)への需要が高く、平成26年6月末現在で、㈱嶺南ケーブルネットワークのCATV加入世帯数は26,482世帯(市内全世帯の約94%)になる。敦賀市は、原子力発電所の立地地域であるため、原子力災害時や一般災害時に市民にいち早く、的確な情報を伝達するために、㈱嶺南ケーブルネットワークでは、防災放送チャンネル(防災情報提供用の専用チャンネル)を設けている。
・ 平成26年8月31日現在、敦賀市にはCATV以外にも、以下の防災情報の伝達手段がある。
インターネット(敦賀市ホームページ)、携帯電話へのTonboメール送信、コミュニティーFM、地域防災無線(EPZ圏内:Emergency Planning Zone:原子力発電所周囲の10キロ圏内の防災対策を重点的に構築すべき地域)、防災情報伝達システム(屋外スピーカー)
・ 防災センターで一回情報を入力すれば、上述の防災情報伝達手段に、同じ内容の情報が迅速に、一括で発信されるシステムが作られている。
・ 防災情報伝達システム(屋外スピーカー)は、災害の状況や敦賀市からの避難情報、全国瞬時警報システム(J-ALERT)で受信した緊急地震速報などを、CATVネットワーク及び地域WiMAX経由で放送するシステムである。㈱嶺南ケーブルネットワークが運営している有線ネットワーク網(CATVネットワーク網)と地域WiMAXとで、通信インフラを冗長化することで、万が一の通信不良時でも確実に放送することができるようにしている。屋外スピーカーに関しては、有事の際に、スピーカーから音が鳴らないという事態が起こらないために、1日4回定時ミュージックを鳴らして、点検を行っている。

(2) 業務継続計画(BCP)の策定について

2013121302「地方公共団体におけるICT部門の業務継続計画(BCP)策定に関するガイドライン(平成20年8月 総務省)の内容をベースに、BCP策定についてご講演いただいた。

・ BCPは、災害に対してレジリエンシー(しなやかに)対応していくために策定するものである。災害発生時の緊迫した最中に、決められたルール(分厚いマニュアル)通りに対応することは難しい。そのため、A4用紙1枚ほどの簡単にまとめられたBCPは、社員が容易に理解することができ、素晴らしいと考えている。
・ 机上訓練の本当の目的は、社員の「意識改革」にある。机上訓練を通して、社員に対して、リスクを考えた行動を意識付けるとともに、自分は今何をしなければならないのか、自覚させる。
・ 同ガイドラインは、「自らは無事で住民や企業の救援に全力で当たれる前提」で書かれているが、この前提は、自らが深刻な被害を受けることを想定しておらず、そのような状況下での業務の継続が考慮されていないため、無理がある。
・ 一般的に各団体の地域防災計画は、「自らは無事で住民や企業の救援に全力で当たれる前提」で書かれているが、この前提は、自らが深刻な被害を受けることを想定しておらず、そのような状況下での業務の継続が考慮されていないため、ここにBCP策定の必要性が生じる。
・ ICT部門のBCP策定で、策定対象・策定範囲の絞りこみの際は、システム成熟度を意識して、策定期間、工数、策定人員、策定費用等、無理をしないように留意する。無理をしてしまうと、実際に災害が発生した場面で機能しなくなる。
・ BCPは策定する事が大事である。しかし、地方公共団体においては、BCP策定はあまり進んでいないのが現状である。

6.所感

東日本大震災の際は、欲しい情報が中々手に入らず、ノイズの入った情報が錯綜し、歯痒い思いをしたことがあった。そのため、敦賀市の防災情報システムのように、信頼できる情報が適切なタイミングで発信されることは、災害発生時に大変重宝するし、他の地方公共団体でもこのような取り組みが進んで欲しい、と感じた。今回の敦賀市の取り組みを伺って初めて、私の住んでいる市でも同じような取り組みを行っていることを知った。私の危機管理意識の低さは否めないが、地方公共団体においても、もっと積極的に、このような取り組みをしていることを、住民にアピールして欲しい、と感じた。
BCPの策定に関して、川端氏が仰った「A4用紙1枚ほどの簡単にまとめられたBCPは、社員が容易に理解することができ、素晴らしい」の点は、私も共感できた。全ての事を想定して対策を立てることは難しいし、あまり細かに策定すると、実際に災害が発生した際にマニュアルをいちいち確認して、その場で理解しながら動かなければならず、迅速な対応が求められる状況下では、あまり機能しなくなる、と感じたからだ。但し、A4用紙1枚にまとめても、内容が薄っぺらいと、どう動けばよいかわからず、結局は無用の長物になってしまう。そのため、なかなか難しいとは思うが、社員がしっかりと理解し行動できる、多すぎず少なすぎず、バランスのとれた分量で、BCPを策定する必要があると思った。
今回の講演を拝聴し、災害に対してレジリエンシー(しなやかに)対応していくため、必要な情報を必要な時に入手できる情報源の確保と、その情報を利用して災害に対して柔軟に対応できるようなBCPの策定が重要であることを、改めて確認できた。

以上