SAAJ近畿支部第169回定例研究会報告 (報告者:是松 徹)

会員番号 0645 是松 徹 (近畿支部)

1.テーマ 「プログラミング教育の現在・過去・未来」
2.講師 大阪電気通信大学 総合情報学部長 教授 魚井 宏高 様
3.開催日時 2017年11月17日(金) 18:30〜20:30
4.開催場所 大阪大学中之島センター 2階 講義室201
5.講演概要

過去から現在にわたるプログラミング教育の実際と現在大きく変化しているプログラミング教材をご紹介いただき、プログラミングと今後の社会人との関わりをどのように思い描くべきかを、大学での豊富なプログラミング教育や教育システムの研究・実践のご経験を踏まえ、幅広くお話しいただきました。

<講演内容>

5-1 プログラミング教育の意義

① プログラミング教育はプログラミング言語を教えるのではなく、「プログラミング的思考」を身に付けさせることが狙いである。育成すべき資質・能力として、a)学びに向かう力・人間性等、b)知識・技能、c)思考力・判断力・表現力等があり、「プログラミング」を恐れる必要はないことを体験させることがa)の育成に繋がることになる。

② 「プログラミング的思考」とは、自分が意図する一連の活動を実現するためにプロセスを構成する要素の最適な組み合わせを論理的に考えて行く力である。

5-2 プログラミング教育の歩み -過去-

① メインフレームの時代:FORTRAN、COBOL、PL/1といった言語が主流であった。英語マニュアルを読む、演習問題を解く等によりプログラミングの習得を図っていた。

② キャラクタ端末からPCの時代:使用言語としてPASCALからBASICへの移行が見られた。解説本を読む、演習問題を解く等によりプログラミングの習得を図っていた。 また、この時代までは一人一台計算機を占有できる環境は珍しかったことから、すぐにプログラムをマシン上で実行するのではなく、机上デバッグが要請された時代でもあった。

5-3 プログラミング教育の歩み -過去から現在-

① PCの時代:Cを手始めに、Visual BASIC、C++、JAVAといった言語が主流となった時代である。解説本を読む、演習問題を解く等に加えて、ノートPCが現れたことにより自宅で宿題をこなすことでプログラミングの習得ができるようになった。

5-4 プログラミング教育の歩み -現在から未来-

① ノートPCやタブレットの時代:Visual言語とGUIが主流である。今やマニュアルや解説本等は読まなくなってきた。また、演習問題を解くよりは緻密に作られたコースウエアに従う流れがでてきた。

② スクリプト言語(Python、PHP、Ruby)が普及してきた。「文系だからプログラミングはしない・できない」は通用しない環境となってきている。

③ IOTとの連携が問われている。子供の興味を惹くには、動く・光る・音が鳴る等の工夫やロボットとドローンとの組み合わせ等が考えられる。これらを実現するハードウエア教材の例として、Raspberry-Pi(イギリス)やArduino(アメリカ)等がある。

④ 子供向けプログラミング言語としてScratchが定番化してきた。

⑤ 現在、様々なプログラミング教材が現れてきている。具体例を以下に紹介する。
・IchigoJam(プログラミング専用こどもパソコン:BASACでプログラミングが可能)
・SONY MESH (電子ブロック:タブレットでプログラミングが可能)
・LittleBits – CodeKit (次世代の電子ブロック)
・Makeblock – neuron (自己完結型のIOTキット)
・LEGO – Mindstorms EV3 (教育用ロボット:定番化)
・ozobot (教育用ロボット:色の組み合わせの命令が可能)
・edison (超小型コンピュータ:センサ、モータ、スピーカ等の要素を一体化)
・sphero (球形ロボット:転がるドローン)
・Viscuit(Harada 2003~)(ゼロテキストのビジュアルプログラミング言語)

⑥ その他ゼロテキストの試みとして、Osmo Coding、Computer Science Unpluggedがある。

⑦ 小中学生向けプログラミング教育の民間での取り組みとして、Hour of CodeやCoderDojoが開催されている。

5-5 プログラミング教育の歩み -未来-

① ウェアラブル/スマホの時代:AR(拡張現実)/VR(仮想現実)等の技術・手法の普及が考えられる。

② 使用されるプログラミング言語は見通せないし、そもそも使用されない可能性もあるだろう。マニュアルは完全に不要になると思われる。

③ 自然言語によるプログラミングやAIによるサポートもあり得るだろう。

④ 演習問題を解くのではなく、現実的な課題を解かせる方向が考えられる。まさに原点回帰である。

5-6 まとめ

① 産業がすべてIT化していく中でITの技能は社会人として必須となった。

② その必須部分が「プログラミング的思考」であり、すべての人が具備すべきと考える。

6.所感

2020年から小学校でプログラミング教育が必修化される動きの中、プログラミング教育の実際や狙いについてご講演いただき、今まで不案内であったプログラミング教育に対する認識を新たにすることができました。 さらに、プログラミング教育により身に付けるべき「プログラミング的思考」について理解することができました。
今回のご講演では、スクリーン上への教材ソフトの操作結果投影や具体的なキットを使用したデモを随所で行っていただき、大変楽しく拝聴させていただくとともに、多彩なプログラミング教材の実態を知ることができました。これだけ多くのデモをしていただいた定例研究会でのご講演は、今までなかったように思います。何だか大学での講義を受講させていただいている気分になり、また講師ご自身も楽しまれている様子が覗え、ご講演時間があっという間に終わった印象でした。
プログラミング教育は時機を得たテーマでもあり、是非続編を拝聴したいと感じた次第です。

以上