SAAJ近畿支部第181回定例研究会報告 (報告者:荒牧 裕一)

会員番号 0655 荒牧 裕一(近畿支部)

1.テーマ:「地方自治体の働き方改革と公文書管理」
2.講師:合同会社KUコンサルティング 代表社員、総務省地域情報化アドバイザー、
文部科学省セキュリティ対策推進チーム 副主査
 髙橋 邦夫氏
3.開催日時:2019年9月20日(金) 18:30~20:30
4.開催場所:大阪大学中之島センター 2階 講義室201
5.講演概要

人口減少期のスマート自治体実現に向けて、地方自治体でも働き方改革に着手を始めているが、多くの課題が立ちふさがっている。テレワーク実現に向けては紙での仕事からの脱却が必須で、自治体の決裁電子化をどのように実現するかが重要である。
本講演では、元・地方自治体(豊島区)の管理職員であり、多くの自治体を支援している講師によりポイントを説明していただいた。

(1)自治体における生産性向上とは

人口減少・少子化社会においても地方公務員が選ばれる職業であるためには、それが魅力ある職業でなければならず、自治体の生産性向上やスマート自治体の実現はその一助となる。
その際、今のシステムや業務プロセスを前提にした「改築方式」でなく、今の仕事の仕方を抜本的に見直す「引っ越し方式」が必要である。法令に基づきながらも仕事の進め方は各自治体がバラバラであり、マニュアルがなく先輩からの引継ぎを繰り返し、誰かが「止めていいよ」と言わない限り継続するといった地方自治体特有の意識を根底から変えることが、成功の鍵となる。まず手を付けることは、今の仕事を総棚卸して「見える化」し、必要なことと無駄なこと、効率化していい部分とできない部分を把握することである。

(2)庁内移転で実施した文書一元化の働き方改革

豊島区役所の改革のきっかけは、2015年5月の新庁舎オープンである。それまでの文書管理は個人単位であり、①所在が本人しか分からず有効活用ができない、②異動時の引継ぎが不徹底となる、③重複文書が増え執務環境が悪化する、④検索に時間がかかりサービスの低下を招く、といった文書の私物化・属人化による問題が生じていた。
そこで、2010年度までに統合文書管理システムを導入して既存文書の整理と文書の電子化を徹底的に進めた。導入1年半後には、紙文書の削減(起案文書の紙出力枚数の42.4%削減等)、意思決定の迅速化(区長決定までの平均日数が7開庁日から3開庁日へ短縮等)、利便性の向上(登録文書検索回数32,618回、過去文書複製回数22,862回等)といった具体的な成果を挙げることができた。試算によれば、紙文書の削減により保管スペースは1,788㎡相当の削減が図れたとみなすことが可能で、建築費用換算で6.26億円、収納家具購入費で約1.5億円程度のコスト削減に相当する効果と考えられる。
また、ワークスタイルの面でも、①無線LANとタブレット端末を利用したモバイルワークの実現、②ユニファイドコミュニケーションシステムへの統合、③すべての管理職員へのタブレットと携帯電話の配布によるテレワークの実現、④複合機の一括契約・集約配置による入出力環境の統合、⑤機動的な会議室管理システムによる会議スペースの有効活用と会議時間制限等の新ルールの導入、⑥議会へのタブレット持ち込み可能化によるペーパーレスの推進、といった変革も進めていった。これにより、出力枚数は3分の2になり、初年度でプリント枚数が約600万枚削減された。また労働者の仕事の2割はモノ探し(サーチ作業)と言われるが、検索機能の向上によって年間1億2,500万円のコスト削減になったと試算される。
区民サービスの面でも、最新の庁内インフラやネットワークによって、①受付対応の迅速化、②出先施設に対する遠隔手話・通訳サービスの提供、③出先機関での専門的な相談対応、といったサービス向上を実現している。
豊島区では、トップの側には「もっと現場に出て行ってもらいたい」「自席で下を向いて働いており顔が暗い」といった思いがあった。その反面、職員の側には「仕事の依頼などはメールか電話が主体なので自席にいる必要大」「会議や打ち合わせが多く資料作成が大変」といった憂いがあった。これらの問題を解消し、住民との協働の機会も増加させたいというのが、ワークスタイル変革の目指したところである。それを成功させるには、いきなり在宅勤務を目指すのではなく、まずはどこでも働ける環境を整備することを目指すべきである。

(3)職場環境のリノベーションと自治体ならではの働き方改革

グループウェアはどこの自治体でも導入済みのはずである。標準搭載のソフトでもMS OfficeのOneNoteで会議資料を作成するなど役に立つ。これらのツールを有効活用し、情報を誰もが見られる状態にしておくことがまず重要である。さらに今後はビジネスチャットツールの活用も進めるべきである。
地方公務員の仕事には、法令の縛りやジェネラリスト主義といった問題があり外資系のようなテレワークは無理である。しかし、庁舎外でのモバイルワークや庁内PC配布による資料共有といった、日本の公務員ならではのテレワークを考案していくべきである。
今後の方向性としては、①マイナンバーの徹底活用、②電子申請等の推進、③RPAの導入、④BIとAIとの融合、といったものが挙げられる。
働き方改革といっても何かを新たに創出するものではない。規則や習慣を見直して公共の場に取り込むことが改革だといえる。またICT技術もほとんどは昔からありそれ自体は決して先進ではないが、それらを新しい分野で使うことに先進性が見いだせる。自治体での実績に拘っていては前に進めないので、アンテナを外の世界に向けて公共で使うイメージを鍛えることが肝要である。

6.所感

講師は、豊島区での経験を活かし、多くの自治体の業務の電子化・効率化のアドバイスを行っている。民間企業でも難しい業務の電子化・効率化を、より組織が硬直化していると思われる自治体で実現させるには、実践上は多くの苦労があったはずである。その苦労から得たノウハウの一端を知ることができ、非常に参考になった。

以上