西日本合同研究会2019-開催報告

会員番号 0655 荒牧 裕一(近畿支部)
会員番号 1531 金子 力造(近畿支部)

1.統一テーマ 「スマート社会とシステム監査」
2.開催日時  2019年11月23日(土) 13:00~17:30(研究会)
        2019年11月24日(日) 10:00~12:00(データセンター視察)
3.開催場所  大阪大学中之島センター 10階 佐治敬三メモリアルホール
4.開催概要

西日本の5支部(北信越、中部、中四国、九州、近畿)が毎年持ち回りで開催している西日本合同研究会を、今年は大阪市にて開催しました。
統一テーマは「スマート社会とシステム監査」であり、スマート社会を担うIT技術とそのシステムに対する監査の視点を含めた研究発表と議論を行いました。その概要を報告します。

(1)研究会(1日目)

①本部講演「DXの現況とシステム監査の可能性」 講師:SAAJ副会長
三谷慶一郎 氏    

まず基調講演として、SAAJ本部よりお越しいただいた三谷氏にご講演いただきました。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業における重要な経営課題になっていますが、必ずしも十分な効果創出にはつながっていません。DXを大きな成果に結びつける鍵は、デジタル技術の導入だけでなく、組織や人材を含むガバナンスを強化する点にあるとのことでした。さらに、経済産業省の一連のDX政策(「DX推進指標」、「デジタルガバナンス・コード」)の最新の検討状況のご紹介やDX推進におけるシステム監査人の活躍の可能性についてもお話しいただきました。

②支部講演1「AIシステムをどう監査するのか?」
講師:SAAJ北信越支部 栃川昌文 氏

北信越支部からは、栃川氏にご講演いただきました。
AIの時代においては、AIが間違った判断をしたことによって企業活動に大きな影響をもたらすことが考えられ、そのリスクへの対処が重要な課題になると思われます。そのため、AI時代におけるシステム監査には、こうしたAIに関するリスクに対して企業がどう対処しているのかを評価することが求められます。本講演では、AIのシステム監査をどのように行ったらいいかを、AIの特徴や開発方法をもとに考察され、その方向性を示していただきました。

③支部講演2「スマート社会を支えるプロセスイノベーション人材とシステム監査」
講師:中部支部 久保田秀男 氏

中部支部からは、久保田氏にご講演いただきました。
スマート社会を支える、強固な品質体制を構築するプロセスイノベーション人材の育成について、2019年11月9~10日に開催されたSAAJ中部支部・北信越支部・JISTA中部の合同研究会でのワークショップの成果を踏まえた発表をしていただきました。実際にワークショップに参加された会員からの補足説明や、会場からの質疑応答も活発になされ、具体的な事例を用いたワークショップへの関心の高さが伺えました。

④支部講演3「超スマート社会 日本政府と新興国の動き」
講師:九州支部 荒添美穂 氏

九州支部からは、荒添氏にご講演いただきました。
スマート社会(Society 4.0)実現によって、理論的な地理的情報格差は激減し、国際的なSDGs推進にも後押しされて、新興国のネット活用ビジネスが加速しています。さらに、日本政府が強力に推進を打ち出した超スマート社会(Society 5.0)の本格的な到来が目前となり、小規模事業者間や海外企業間でのビジネス連携が進むことは間違いありません。本講演では、このような超スマート社会における問題点について、コンサルタントならではの視点で整理して発表していただきました。

⑤支部講演4「消費税複数税率時代のキャッシュレス社会&AI時代にあるべきシステム監査人の資質とは?」
講師:近畿支部 田淵隆明 氏

近畿支部からは、田淵氏にご講演いただきました。
本年10月1日消費税の複数税率導入における教訓や、2021年4月に強制適用される「新会計制度」対応とIFRS16の「新リース会計対応」を例に、新しい法令や制度とシステム監査人との関わりについて発表された。また、AI時代の到来により、士業の一部はピンチではないかと言われ始めているが、AIに負けないためのシステム監査人の有り方についても論じていただきました。

(2)データセンター視察(2日目)

西日本支部合同研究会2日目は、講演会会場近くのデータセンターを視察しました。SAAJ近畿支部では、支部活動に役立てるため、2009年3月から独自ドメインを取得し、ホスティングサービスの利用を開始しました。以来約10年間、メール運用及び支部ホームページからの情報発信を行っています。今回その契約先である、さくらインターネット(株)様のご協力により、データセンターの見学を実現することが出来ました。

①概要説明と質疑応答

最初に建物全体を管理されておられる会社から、データセンターの構造や概要を解説していただきました。その後、入居されているホスティング会社も含め質疑応答を行いました。今年はアマゾンや楽天などデータセンターが関係する障害も発生していましたので、障害時対応やバックアップの仕組み、入退室監視、温度監視、電源トラブル、TIER4対応、水害や地震の対応など質問は多岐にわたりました。北海道地震の対応や燃料の優先供給など、大変具体的で興味深いお話を聞くことが出来ました。

②サーバフロア見学

ホスティング会社が入っているサーバフロアの一部を見学しました。多くのラックが並んでおり、入退室や監視、セキュリティの仕組み、サーバ冷却システム、消火設備、耐震対策など詳しく説明していただきました。冷却システムは色々なタイプがあるようですが、ここは床全体から冷気が上がってくる方式でした。消火はCO2ではなくチッソガスで、これは人体への影響が少ないからだそうです。

③電力設備フロアおよびバッテリーフロア見学

建物地下には「とう洞」と呼ばれる大きなトンネルがあり、そこから通信ケーブルと高電圧の電線が来ています。川のすぐそばなので、浸水リスクについて質問が出ましたが、土台そのものが高く作られ、かつ地下階は船のような構造になっており、扉もハッチ式だそうです。バッテリーは、想像していた大型蓄電池ではなく、無数の小型UPSがフロア一杯に並んでいました。停電の際は、まずこのUPSで短時間バックアップを行い、その間に発電機を起動するとのことです。

④屋上発電設備及びヘリポート見学

屋上にある発電設備を見学しました。ただし燃料は地下にあるので、まずポンプを動かすための燃料は、屋上に常備しています。発電機の訓練は、毎月行っているとのことでした。備蓄する燃料の劣化について質問が出ましたが、重油ではなく軽油を使っているので比較的長期間保つようです。この発電で約20時間持たせるとのことでした。ただし、大規模災害時にはやはり燃料輸送が心配であると、職員の方が懸念されていました。

最後に最上階のヘリポートで記念撮影を行いました。
今回はサーバフロアだけで無く、建物の電源設備や発電設備まで見学でき、セキュリティやBCPなどの観点から具体的な話を聞けて大変興味深く勉強になりました。休日にもかかわらず、ご対応いただきました、さくらインターネット株式会社の社員様とデータセンター職員の皆様には、改めて御礼申し上げます。

■さくらインターネット株式会社データセンターご紹介
> https://www.sakura.ad.jp/corporate/corp/business.html#dataCenter-business

以上