SAAJ近畿支部第210回定例研究会報告 (報告者:大谷英徳)

会員番号 2782 大谷英徳(近畿支部)

1.テーマ 『デジタル化に向けたIT部門の取組み』
2.講師    日本オラクル株式会社所属
コンサルティングソリューションディレクター
丸山博儀様
3.開催日時  2025年1月17日(金) 19:00~20:30
4.開催場所  ドーンセンター5階セミナー室2、オンライン視聴(Zoom)
5.講演概要

講師の丸山様が、長年にわたるIT部門での勤務並びに中国での駐在、米国IT系企業での勤務など幅広いご経験を基に、日本再生のカギを握る日本のIT部門の覚醒についてグローバルな視点から講演をいただいた。

(1)日本の状況

日本のITの現状について、日本企業で稼働のITシステムはモダニズムが進まず、カオスにシステムが連携している。その運用に人、モノ、カネといった経営資源が食われている状況で新たなシステム構築が行いにくい。複雑化したシステム故に全社でのデータ利活用ができていない。そのような状況下にあって世界はDX化が進展、またAIなど新たなITの進化が進んではいるが、その動きに乗ろうとしても日本は現ITシステムのお守りが中心でかつスキルあるIT人材の不足が大きな課題となっている。

(2)デジタル大国中国

中国において2015年からチャイナイノベーションと呼ばれるモバイルとインターネットが融合した時代が到来した。政府のトップダウンの取り組みに加えて、中国人の合理性・先取性精神に、スピード感をもって実装面と応用面での工夫を凝らす手法で、短期間にデジタル化されたサービスが社会基盤化として確立した。最近ではチャイナイノベーション2.0と呼ばれるフェーズに移り、チャイナイノベーションで培ったノウハウ、人材、データ、社会基盤をベースに、AIとコンピューティング能力を使った新たなサービスと産業チェーンを創造し、巨大な国内市場を実験場にして品質と製品を磨き、グローバル市場に進出を目指し米国と激しく対立することとなり、現在も続いている。

(3)米国IT企業

  米国経済の成長は情報処理産業の発展に依るところが大きい。日本との比較において、製造業の成長率は日本と米国では大差は見られないが、こと情報処理産業においては大きく水をあけられている。この一つの要因として日本のホワイトカラーの生産性の低さが指摘されている。村田聡一郎著「ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか」によると、日本のカイゼン文化・現場力は素晴らしい成果をブルーカラー領域で上げた。しかし、ホワイトカラー職人の領域では、それが部分最適の山を築き、部門間の情報分断を招く結果となった。と指摘している。翻って欧米企業には常設組織のプロセスオフィスが有り、全体最適を常にUpdateしていく機能がある。と断じている。

(4)変革に向けて

  このような状況において日本企業の変革は可能なのか?について、ウリケ・シェーデ
 著「シン・日本の経営悲観バイアスを排す」では、決して悲観する状況ではない。変化が遅いのは、安定と引き換えに日本が支払っている代償であり、遅いのは停滞ではない、日本の先行企業は改革を重ねて、再浮上している。ショックはチャンスであると述べており、日本企業にはポテンシャルは十分あるとのこと。

6.所感

講師の丸山様は長年中国でのビジネスを展開されてこられたご経験から、中国のデジタル化の現状について、多くの具体的事例を紹介しながらの説明を頂き、改めて中国はもとより世界のIT化、DX化の進展の速さについて理解を深めることができた。ただそういった状況であっても、日本ではまだまだ変革のチャンスはあるとのことで、「シン・日本の経営悲観バイアスを排す」の中で述べられていた「日本は人間でいえば今が思春期」という言葉に、かすかな光を見出した思いであった。今回の講義では私自身IT化の進展は予想を超えるスピードで展開していることを学んだ。そのことを踏まえシステム監査においてもこのIT化の進展に遅れないよう日々研鑽が必要であると感じた。

以上