SAAJ近畿支部 第132回定例研究会報告(報告者:小河裕一)

報告者:No1710 小河裕一

1.テーマ  : 「危機管理と情報システム」-真の住民のための危機管理対応(BCP)とは-
2.講師   : 西宮市CIO補佐官及び西宮市情報センター長  吉田 稔氏
3.開催日時 : 2012年3月16日(金) 18:30~20:30
4.開催場所 : 大阪大学 中之島センター 7階セミナー室
5.講演概要

5.1西宮市の状況
阪神淡路大震災から17年経過した。
当時、被災率・規模・財政状況等、ダメージが非常に大きかった。
しかし、当時安全対策を先行して投資していたため、復旧は早かった。
現在の西宮市は赤字債権団体転落寸前からも回復し、人口増においては、阪神間で一人勝ちしており、増加しているのは、「子育て世代」である。

5.2危機管理対応の背景
全国の自治体の中でも最も早い昭和36年に電算機導入し、職員主導による自前のシステム開発を推進。50年代には「住民辞書」を抱合する「統合宛名DB」を採用した。これが阪神大震災時に有効に使えることができた。この大震災時における復旧作業の経験から「被災者支援システム」を開発した。

5.3被災者支援システム開発のきっかけ
阪神淡路大震災の際、西宮市は庁舎倒壊し、電算機も倒壊した。
職員は、まず出勤して人命最優先の対応から、職員の安否確認後、被災者支援業務を行う課員と電算機器復旧の作業を行う課員に分かれて行動を開始した。震災翌日には官民連携が功を奏してシステムが2割程度復旧し、住民情報システム稼動を契機に情報システムを駆使した被災者支援が必要と考え、被災者支援システムを少数精鋭で開発(10日間)し稼動させた。

5.4被災者支援システムの運用
初日、開発、稼動したにもかかわらず市の方針は「システムを使わない」。
だが被災証明を出すために市民を最大で6時間以上も待たせてしまったため、急遽、翌日からシステムを稼動。その他、被災状況の分析を実施。その為には、住民基本台帳をベースに被災者台帳(DB)を構築し、被災状況の調査・入力を実施した。

5.5被災者支援システムの開発、運用を経て得た教訓
システムの構築が被災者の支援に絶大な効果を発揮した。その後の住民サービス支援にも大きく貢献した。結果、以下の事柄を認識することができた。
・超強力なリーダシップ
→決断できる管理者が必要。組織につぶされる。
・市民、職員に支援してもらえる環境が即刻整う環境
・日々の運用

5.6東日本大震災時にできていなかったと感じたこと
今回の東日本大震災では、以下の事柄ができていなかったのでは?と感じている。
・被災者支援業務の理解と遂行
・被災者支援システムの導入
→情報部門の自治体内における地位が低いことが原因しているのでは?
・超強力なリーダの不在
阪神淡路大震災という前例があったにもかかわらず、この17年間ITに関して何も変わっていない。

5.7被災者支援システムV5.0の概要
3.11以前は50団体程度の運用だったのが3.11移行750団体超に拡充している。
被災者台帳と完全連携しGISも活用できる要援護者支援システムも追加になった。
東日本大震災の様な「面の災害(広範囲に及ぶ災害)」にも対応している。
個人の追跡履歴管理機能、複数災害の管理、避難者受け入れ機能を追加した。

5.8東日本大震災での教訓
未体験ゆえ、危機管理下では「船頭多くして、船山に登る」状態の自治体が多い。
従来の地域防災計画は時代遅れであり、しっかりと見直しを!!
被災者支援システムの導入を訴え続ける必要がある。
行動力あるのみ!!
最善を望み、最悪に備えよ!!

6.所感
東日本大震災から1年たった研究会であり、非常に興味深いものであった。
3.11後は少し変化があるのかもしれないが、一般企業もそうであるように災害は「対岸の火事」のように思っている人が多いのではないかと思われる状況と感じた。「BCP」という言葉が浸透し、対策されるためには強力なリーダシップの元に誰かが行動をおこし、動かないといけないように感じた。監査としては、そういう人物がいて実際に対策されているのを見ていくのだろうか?という事も同時に感じた。

以上