SAAJ近畿支部第180回定例研究会報告 (報告者:山本 全)

会員番号 1779 山本 全(近畿支部)

1.テーマ 「やらないリスクが本当は怖い!システム開発時に必須の知的財産に関する確認工程」
2.講師    北摂国際特許事務所 代表弁理士
 福永 正也 氏
3.開催日時  2019年7月19日(金) 18:30~20:30
4.開催場所  大阪大学中之島センター 2階 講義室201
5.講演概要

 今まで、知的財産に関し多くのIT企業の相談に関わられた講師が一番強く感じているのは、自分たちには関係ないと言い切る経営者が本当に多いこと。しかし、ソフトウエアの名前が商標権侵害だと指摘され、せっかくの名前を替えざるを得なくなったケース、あるいは特許に抵触しているために実施料を権利者に払い続けなければならなくなったケースなど、少し検討しておけば無駄な費用を押さえられたのにというケースは多々ある。講師の福永氏は船舶の設計、SEとしての多数のプロジェクト参画といったユニークな経歴を経て今や「ソフトウェア関連発明のスペシャリスト弁理士」として活躍されている。
今回は、その経験をふまえシステム開発時にこれだけはしておかないと後々痛い目にあう事柄を実例交え解説いただいた。

(1)特許に関する確認事項

 何がソフトウェア発明なのかがわからない、というのが多くの開発者の認識であろう。まずそれに気づくための視点が説明された。「何に困ったか」「今までと何を変えたか(方法の工夫、100%再現性が無くても特許の可能性あり)」の点を突き詰めて考えてみるべきである。それにあたって留意すべきことは「単なる組合せ」「手作業をシステム化しただけ(例:公知の手順である決算のスピード化)」というものは特許にはならないということである。
そういった発明の種に気が付けば次は先行文献の調査を行うことになる。順としては①特許侵害の可能性調査、②権利化の可能性調査である。この2点は特許庁からの公開情報を利用することで可能となるが一般的にはあまり行われていないように思われる。
①特許侵害の可能性調査については基本となる「請求項」の記載にどれだけあてはまるか、「明細書」の記載でどこまで限定されているかを調べる。ソフトウェア特許の権利は構成項目が多くなるため完全侵害にはなりにくい、言い換えれば権利範囲が狭くなりがちな傾向があるといえる。
②権利化の可能性調査については「発明の詳細な説明」についての記載を調べ同一記載がないかを確認することが基本となる。留意点としては「解決課題」があってこその「請求項」であること。「解決課題」の記載次第で、権利化の可能性が広がることもあるので、弁理士などのプロの支援が必要となってくる。
あと注意を要するのが特許の可能性がある発明の情報がすでに出回っていないか、という事である。まだ開発中で出来上がっていないにも関わらず、お得意先への営業資料にその内容が先行して書かれていると新規性を失ってしまうことになりかねず事前の情報管理が必要となる。
公開されている調査ツールとしては「J-PlatPat」がありデータベース検索が可能である。Fタームという特許庁が審査実務で使用している技術分野分類のコードを活用できるようになると有用な調査が可能である。

(2)商標に関する確認事項

商標法はその商標を持つ権利者の信用を守ることが目的である。ソフトウェアであれば販売HP上のロゴと名前も商標の権利対象に該当する。商標にあたるその名前を何にどう使うのかが権利化のポイントとなる。
名前、ネーミングというこのはセンスの良しあしが議論されがちだがもっと科学的に分析されるべきである。良い、売れるネーミングの本質は「機能(技術)と感情(思い入れ)の両方が含まれる」「既視感(聞いた事ある)と新奇性(でも何か変)の両方が含まれる」にあるのではないかと考えている。
商標侵害を調査するには、商品および役務が類似していないか、第三者が見て混同しないかという点が基本となる。ここでも前述の「J-PlatPat」がツールとして利用できる。特許庁が審査に用いる類似群コードを活用することになる。判断にあたってよく忘れがちになるのは①商標存続期間の確認、②具体的な商取引の実情(類似していても侵害にならないケースもある)である。

(3)意匠に関する確認事項

 意匠については改正法案が2020年中に施行予定であり、ここでのポイントは画面デザインが保護対象となることである。従来は物品のデザインを意匠ととらえ、端末に実体がインストールされずネットワーク経由で表示される画像は保護の対象外であったが新たにこれが対象となる(物品の枠を取り払う)。
画面デザインが保護される上での類似判断は画像部品の大きさと配置、つまり外観と美観で行われ通常の意匠類似に比べ判断される域が狭くなると考えられる。また画面デザインは意匠では例外的に機能が重要視され、単なる装飾的なもので機能性を持たないデザインは権利化が不可となることも留意しておかねばならない。
事前に行える侵害調査の方法としては特許庁の画像意匠広報検索支援ツールが活用できることを知っておきたい。

(4)さいごに

 IT等の技術進化と法の整備についてはどうしても後者が後追いになりがちで、法律もその時々完全ではないことを認識すべきである。そのような状況では相談すべき専門家を見極める力が重要になってくる。ソフトウェア関連の知財専門家を見つけるのは中でも難しい。その専門家が「今までITビジネスの当事者としてどのような開発プロジェクトに関わってきたのか」を問いかけ、その応答で適格性の判断をするのが良いのではなかろうか。

6.所感

ITビジネスの開発・運用に携わる筆者にとって、知的財産の権利存在と侵害リスクについては正直ほとんど意識することがなかった。今回、ものづくりやITから弁理士業務まで幅広い実績を持たれる講師のお話しに触れ、気づくことが多かった。また具体的な事例を多く取り入れ工夫された講義のおかげでポイントを効率的に学習できたのではないかと考えている。

以上