SAAJ近畿支部第187回定例研究会報告 (報告者:是松徹)

会員番号 0645 是松徹(近畿支部)

1.テーマ 「大学(短大)におけるコロナ禍への対応」
2.講師    大手前短期大学 ライフデザイン総合学科 教授 近畿支部 副支部長
 荒牧 裕一氏
3.開催日時  2021年1月15日(金) 19:00~20:30
4.開催場所  大阪大学中之島センター 2階 講義室304 およびオンライン視聴
5.講演概要

社会の各分野で新型コロナウィルス感染症対策への取り組みが求められる中、教育現場においても2020年3月上旬の小中学校の一斉休校をきっかけに、様々な対応が行われている。
今回は、講師が勤める関西の中規模大学(短期大学)におけるコロナ禍への具体的な対応事例(2020年度)をご紹介いただき、非対面授業、学生支援、オープンキャンパス等への取り組みを通して、現場での奮闘の実態と課題等についてご講演いただいた。

(1)職場環境の特徴

①学園は大学、大学院、短期大学、専門学校から成り、人数的には中規模校に位置付けられる。
学生数合計:3,626人 教職員数合計:296名 (※留学生は少ない)
②実習科目中心の学部・学科が多く、リアル授業復活が学園上層部の意向として表明されている。
③大学に通信教育部が存在し、e-ラーニングシステム等のノウハウを保有している。
④e-ラーニングシステム(el-Campus)は2010年の通信教育部開設に合わせて導入したクラウド形態の独自開発シテムであり、オンラインでの授業・課題提出・連絡事項等を実施可能とするとともに、通学課程でも、履修確認・成績通知・出欠確認等で利用してきた。

(2)学年開始前後の諸行事

①2020年2月に、在校生向け健康診断、新入生向け入学前ガイダンスを実施済であった。入学前ガイダンスには新入生の約8割が出席した。
②中止となった行事は次のとおりである。
・入学式 ・新入生向け健康診断(8月に延期して実施) ・新入生向け歓迎行事
③規模を縮小して実施した行事は次のとおりである。
・卒業式(学生・教職員のみ出席) ・新入生向けガイダンス(分散して半日開催、履修登録を実施)

(3)緊急事態宣言(4/8)への対応

①2020年4月11日から5月6日までを臨時休業とし、休業期間中は、学生・学外者ともにキャンパス内の立入りを禁止した。(教職員は必要最小限の立入りが認められた。)
②休業期間中(3コマに相当)は、適宜補講を実施した。
③補講の進め方は基本的に教員に委ねられたため、教員間でバラツキが発生した。
④講義系科目は、e-ラーニングシステムの機能を利用してレポート提出を課す教員が多く、実習・演習系科目は、遠隔でできる部分を先行実施したり授業を見送る等の対応が見られた。

(4)大学(短大)の学生及び教員向けのサポート

①学生に対し、a)必修科目のテキストを全員に配布、b)PCを希望者に貸出し、c)「学習支援センタ」のスタッフを増員して学習を支援、d)特別支援奨学金を全員に送金、等を実施した。
②教員に対し、a)研究室ノートPCの学外持出しを許可、b)e-ラーニングシステムやZoom等のオンラインツール操作の研修、c)必要によりZoomのライセンスを配布、等を実施した。

(5)非対面授業の実施(5/7~5/27:立入禁止期間が5/27まで延期)

①学生の生活パターン維持のため、原則として時間割を正規授業に合わせて実施した。
②Zoomによる非対面授業とレポート課題等を併用した。
③非対面授業では、以下の対応を行った。
・テキストが届いていない学生に対し、テキストをスキャンして画像をアップロードした。
・インターネット環境が整っていない学生に対し、レポート課題を併用した。
・Zoomでの出席確認は、チャットに学籍番号、氏名を入力させることとした。
・授業の最初のみ、Zoomでの顔出しを求めた。
・画面共有ができない学生には、教員がスライドを操作し、学生は声だけを出すこととした。
④教員にとって、a)学園によるオンライン環境整備面の支援が乏しい、b)テキストのスキャンや授業スライドの作成・アップロードが負担、c)課題の採点・フィードバックが負担、等の問題があった。

(6)対面授業の再開(6/1~)

①約6割の授業で対面授業を再開した。(学食やクラブ活動は秋学期から再開)
②教室は1席ずつ空けて着席し、教員の前の列も空けることとした。また、各教室には消毒液を、PC教室にはアクリル板を設置し、授業後は出席者が各自で机を消毒する運用とした。

(7)その他

①オープンキャンパスをオンラインとリアルの両方で開催し、例年並みの参加者を確保できた。
②新型コロナウィルス対策のリーフレットを作成・配布し、学生への周知に努めた。
③全学生に2千円分の食券を配布し、学生の食生活と学食運営を支援した。
(GO TO学食キャンペーン)

6.所感

緊急事態宣言下で3密を避けるさまざまな取り組みが求められた中、教育現場においてどのような対応がなされたのかを、講師が勤務されている大学(短期大学)の事例に基づいて、具体的に説明いただきました。オンライン環境ならではの教員への新たな負担がある中で、学生が不利にならないように、また公平に指導ができるように留意しながら、日々授業に取り組まれた様子が覗え、非対面授業の利点と対面授業との相乗効果が発揮され、学生の学習意欲の維持・向上につながることを願った次第です。