SAAJ近畿支部第182回定例研究会報告 (報告者:荒牧 裕一)

会員番号 0655 荒牧 裕一(近畿支部)

1.テーマ 「AI(人工知能)へのお誘い ~花開く機械学習の世界~」
2.講師    兵庫県立大学社会情報科学部 准教授
 笹嶋 宗彦氏
3.開催日時  2019年12月21日(土) 15:00~17:00
4.開催場所  アクセア本町貸会議室 大雅ビル5F 第1会議室
5.講演概要

近年、機械学習を応用したAIシステムが様々な分野で実用化されている。講師は複数の民間企業で働いた経歴を有し、AI技術を現場に適用する産学連携プロジェクトにも数多く参加されている。
これらの経験を踏まえ、AIシステムの実用化事例を紹介するとともに、業務へのAI導入にあたって組織が理解すべき事やデータサイエンティスト人材の活用について講演していただいた。
なお、今回はISACA大阪支部との合同開催であり、ISACA大阪支部12月度特別講演会を兼ねている。

(1)AI技術の今-機械学習を中心に

まずは、AI技術の最新の事例紹介があり、豊富な画像や動画とともに解説していただいた。
例えば、画像分野の事例として、インターネット上で無償提供されているリアルタイム画像認識、ラーメンの画像から40店舗のどこで提供されたものか識別する画像識別、トレイ上のパンを識別してレジ打ち作業を自動化したベーカリースキャン等が紹介された。
セキュリティ分野と機械学習については、ウィルスパターンファイルを機械学習するシステムや、某大学工学系学部でのアカウント乗っ取り事例等が紹介された。さらにロボティクスでは、建築現場をパトロールするロボや、ドアの開閉を行うロボ、配送の自動化を担うロボや56kmの航続距離がある自立飛行ドローン等が紹介された。

(2)DX:デジタルトランスフォーメーション-価値を生み出すAI導入

色々な業務がシステム化されていくが、なぜかサービス品質が上がらないという問題を抱える企業は多いと思う。これは、システムの話ばかりして解決すべき課題をきちんと定義していないのが原因である。また、AIあるいはデータ活用には、①人のAIあるいは機械による置き換え、②AIやデータ活用による新たな価値の創出、の2種類あることの理解が必要であるが、①のレベルにとどまっているケースが多い。②を実現している例としてはGoogleが挙げられる。Googleは、検索サイトを通じて、広告・仲介、さらには量子コンピュータ等の製造までカバーする価値創造業だといえる。先に紹介した事例でも、発表レベルでは人の置き換えに過ぎない。しかし、例えばベーカリースキャンでは、レジ業務の省力化だけでなく知的障がい者でもレジ作業を可能にするといった雇用創出効果があるし、高性能なロボットは人を超える能力を活かす新たなビジネスを生むだろう。そこにAIによる価値創造が生まれる。AIは自動化・効率化は得意で、非定型・属人的な分野は苦手とされるが、こういった苦手分野こそブルーオーシャンでありチャレンジすべきである。
AI導入のシナリオとしては、いきなり価値創造は難しいので、既存業務の置き換えを進めながら技術を見極めつつ価値を発見するのが良い。投資対効果が見えにくい分野については、トップダウンで進めるか、「もし〇〇が起きていれば…」といった形で価値換算をすべきである。
AI導入の第一歩は業務分析であり、まず導入前に全体目標と個別業務の目標を確認することが肝となる。AI導入は成功まで何回もできないので、業務全体を理解して真に必要な業務から検討すべきである。業務分析では、忙しいベテランへのインタビューの時間が取れなかったり、作業のポイントが伝えられなかったりする難しさがあったりする。これについては、構造化した手順と動画・静止画を関連付けてデジタル化した業務マニュアルを利用して現場業務分析をした事例がある。

(3)産学共同での人材育成について

まず、講師がパネリストとして登壇した第15回Webインテリジェンスとインタラクション研究会の「社会が求めるデータサイエンティストとは」と題したパネル討論の内容の紹介があった。そこでは、データサイエンティストに必要なスキルは、課題発見力、IT系スキル、分析系スキル、ビジネス系スキル、といったものであり、人間社会の様々な課題を発見し、主にデータ分析の技術を駆使して、その課題を解決できる人が求められている等の議論がされた。またデータサイエンス教育の特色や育成の苦労等も披露された。
次に、兵庫県立大学社会情報学部での人材育成についての説明がなされた。そこでは、専門科目において知識・技術の習得をするだけでなく、実践力を培う発展的な演習も用意されている。例えば、スーパー光洋の実際の店舗を見学して提案を行うPBL演習や、ノーリツとの連携授業等がある。これらを通じて、①AIの苦手な「型にはまらない仕事」ができる人材、②データ分析の専門技術を習得し、ビジネスモデルや社会の仕組みを理解し、幅広い現場で活躍する人材、③実践的な情報処理技術を身につけ、従来方法では困難なデータや課題を分析して、問題解決へと導く技術者、④データ分析の結果、得られた知見や解決策を現場へスムーズに導入するコンサルティング志向の人材、の育成を目指している。

(4)提言

本講演の内容を踏まえ、最後に講師から、①積極的にAIを導入しませんか?②AIが出来ない分野の研究開発を進めませんか?③高齢化先進国の特権を活かしませんか?といった提言がなされた。

6.所感

はじめに講師から、大手メーカー→国立大学の研究所→ベンチャー企業→現職(大学教授)という多様な経歴をご紹介いただいた。本講演の内容も企業と大学両方の立場を踏まえて、AI技術の最新の事例紹介から現実の業務での活用、さらにはデータサイエンティストの育成といったテーマについてうバランスよく説明していただいた。
最新の事例紹介では、数年前の別の講演で極めて難しい作業として紹介されていたドアの開閉をスムーズにこなすロボットの動画に驚かされた。また、データサイエンティストの育成に関しては理想と現実のギャップの問題も垣間見れた。世の中にはAI関係の情報があふれているがその多くは断片的な情報である。それらに比べて本講演は、関連テーマごとにきちんと体系化された内容であり、非常に参考になった。

以上