SAAJ近畿支部第183回定例研究会報告 (報告者:是松徹)

会員番号 0645 是松徹(近畿支部)

1.テーマ 「地方自治体におけるRPAの取り組み」
2.講師    近畿大学経営学部 教授
 津田 博氏
3.開催日時  2020年1月17日(金) 19:00~20:30
4.開催場所  大阪大学中之島センター 2階 講義室201
5.講演概要

近年、職員が減少傾向にある中、業務の効率化と住民サービスの維持・向上を図るためにRPA(Robotic Process Automation)の導入に取り組む動きが、地方自治体に出てきている。
今回は、16自治体へのヒアリング結果を踏まえた具体的な運用事例を交えて、地方自治体におけるRPA導入の背景や効果・課題等についてご講演いただいた。

(1)RPA導入の背景

総務省から2040構想として「スマート自治体への転換」が提言されている。その背景として、少子高齢化の加速が挙げられており、2040年頃には高齢者人口がピークを迎える一方で、少子化の影響から総人口が毎年100万人近く減少するとも言われている。実際、2019年生まれの子供は90万人を下回わる見通しとのことである。
提言では、以下のように述べられている。
① 従来の半分の職員でも、自治体が本来担うべき機能を発揮できる仕組を導入・運用する。
② AI、ロボティクスが処理できる事務作業は、すべてAI・ロボティクスによって自動処理する。

(2)業務改革について

RPA導入は紙媒体をデジタル化する業務改革の一環であるが、業務改革にあたっては、まず現行業務の棚卸が前提となる。大阪・泉大津市の棚卸事例は以下のとおりである。
① 業務プロセス定義の各作業を実施内容(事務の属性)が類似しているもので分類
② 職員が実施する必要がある業務(判断が必要/職員権限での実施が必要等)を「コア業務」、職員以外による実施について検討の余地がある業務(定型的である/職員権限での実施が不要等)を「ノンコア業務」と分類し、改善余地を検討
③ 各課で実施している業務の各作業を前述の事務の属性(申請受付、相談/面談、入力、確認等)に分類し、事務の属性ごとの業務量を分析
④ 現状は入力や確認、帳票作成、データ抽出といった事務作業が半数程度と多い(事務作業は、入力、確認、帳票作成、データ抽出、書類整理、他機関との連携、統計/集計と定義)
⑤ 申請受付や相談/面談の窓口対応について、いずれの課においても1~2割程度
⑥ 各課で実施している業務の各作業をコア業務とノンコア業務に分類し、それぞれの業務量を分析した結果、調査対象課全体でコア業務が約4割、ノンコア業務が約6割
⑦ 正規職員については、ノンコア業務が7割を占めている部署が3課

(3)RPAについて

RPAとは、人間がコンピュータを操作して行う作業を、ソフトウェアによる自動的な操作によって代替するという概念を指す。一般に、RPAの動作を規定したルールをシナリオ、作成したシナリオをロボット(ソフトロボ、ソフトウェアロボット)という。
RPAの運用が難しい主な点としては、以下が考えられる。
① 画面の変更でロボットが操作するボタンやフォームが認識できなくて停止
② ネットワーク環境の混雑により作業開始前までに前処理が完了できないとエラーになる
③ Windows Updateやウィルススキャン等の他処理の割り込みで停止
④ ソフトロボの誤動作(ロボの対応設定不足)による停止
⑤ 業務システムの想定外に出現するワーニング

(4)RPAの試行・運用事例

自治体では、以下の業務に関してRPA導入の試行・運用事例がある。人口が5万人から10万人規模の自治体に取組事例が見受けられる。
‘①嘱託職員の勤務報告作成、②軽自動車税賦課業務、③ふるさと納税業務の処理全般、④高額療養費支給異動入力業務、⑤異動届出書業務、⑥共通消耗品の払出し請求業務 等

(5)RPA導入の効果

① 52自治体からのアンケート結果からは、RPA導入の目的として、作業時間削減、作業時間削減/ミス防止、作業時間削減/品質向上/ミス防止等の回答を得た。
② 業務を可視化して業務の見直しを行う手段として有効である。
③ 従来、業務量や作業工数を十分把握できていなかったが、業務改革⇒デジタル化⇒RPA化という流れの中でこれらを測定する動きができ、業務改革の実効性を高めることができる

(6)RPA導入の課題

自治体からのアンケート結果では、導入時の問題点・拡大に対する主な課題として以下が見受けられた。
‘①対象業務の選定、②費用対効果創出、③紙申請への対応、④予期せぬ停止や誤動作、⑤全庁展開、⑥利用者の理解不足 等

6.所感

Society5.0やスマートシティ構想が言われる中、地方自治体も行政手続オンライン化やデータ利活用等の推進が求められている。このような中、一つの取組であるRPAの導入に関し、講師自ら3ヶ月で16自治体に出向いて直接ヒアリングされた具体的な運用事例を交えて背景や効果、課題等をご説明いただき、地方自治体の現状を把握する上で大いに参考になった。また、RPA導入では、対象とする業務の難易度、原課の取組姿勢、情報セキュリティや個人情報保護管理に留意すべきという点が印象に残った次第である。

以上