SAAJ近畿支部第211回定例研究会報告 (報告者:荒牧裕一)

会員番号 0655 荒牧裕一(近畿支部)

1.テーマ   「トランプ関税、新リース会計基準と消費税減税の行方とそのシステムへの影響」
2.講師    公共政策・経営コンサルタント、公認システム監査人、特定行政書士、IFRSコンサルタント、コラムニスト。
2012年6月13日、衆議院「社会保障と税の一体改革に関する特別委員会」中央公聴会公述人 田淵隆明 氏
3.開催日時  2025年5月17日(土) 14:30~16:30
4.開催場所  ドーンセンター5階大会議室2、オンライン視聴(Zoom)
5.概要

・昨年9月、新リース会計基準が公表された。強制適用は2027年4月1日以降に開始する年度からである。この新リース会計基準を巡るシステムへの影響を取り上げる。また、昨年指摘した償却資産税の捕捉率向上のための自治体の新たな試み(今後、全国展開の可能性あり)について説明する。
・近年の物価上昇及び米国の関税引き上げを契機として、消費税の減税の機運が強まっている。消費税の減税が行われた場合のシステムへの影響、及び、法制度上の課題について取り上げる。
・その他、高校の新カリキュラム及び大学入試の課題の課題について、取り上げる。

6.講演内容

§0. ASBJ(企業会計基準委員会)のパブリック・コメントの例、東京都立高校の数学の先生とのコラボ

§1. 「平成」という「失われた30年」と重大なシステム事故

平成はゆとり教育等で日本が衰退した時代であり、システム関係では「SI認定の廃止」でシステムの品質管理が打撃を受ける。令和は、真面目に品質を追求するシステム監査人が評価されるべきである。

§2. 「非化石価値」取引の導入

エネルギーを安定的かつ適切に供給するためには、資源の枯渇のおそれが少なく、環境への負荷が少ない太陽光やバイオマスといった再生可能エネルギー源や原子力・核融合(日本は世界最先端)などを含む、非化石エネルギー源の導入を一層進めることが必要である。なお、一部誤解はあるが、非化石価値には原子力・核融合も含まれる。

§3. インボイス方式とVATの世界標準及び消費税減税の動き

食料品などに適用される軽減税率を8%から5%にする場合は消費税法29条の改正のみであり、この場合の財政上のインパクトは約1.8兆円である。また、地方税消費税の減収分を地方交付税で補填するとしても約0.4兆円程度である。いわゆる「103万円の壁」問題でのインパクトは約1.2兆円である。以上を合わせても、約3.4兆円であり、軽減税率を5%にする場合は赤字国債の新規発行は一切不要である。

§4. いわゆる「輸出戻し税」論争、及び、「消費税は対価の一部」か?

「輸出戻し税」により輸出企業は増税すると儲かるというのは都市伝説である。販売時に「仮受消費税」を徴収していない。しかも、輸出許可がなければ「仮受消費税」として仕入税額控除できない。

§5. 「新リース会計基準」と「償却資産税の捕捉率問題」への解決策

横浜市は、(リース物件に限らず)償却資産税の捕捉率の向上のため、「種類別明細書」として固定資産台帳の提出を事実上義務付けた。これにより、全償却資産の申告が義務となり、地方財政の安定化に寄与する。東京都、大阪市などいくつかの自治体も追従した。

§6. IFRS18による新PLの書式及び日本基準(JGAAP)への影響

IFRS18の策定には、ASBJも参画しており、日本基準のPLもこれと同様になる可能性が高い。

§7. 「研究開発費の一律費用処理」

新製品・新規技術の開発を自力で行うことは、技術開発のノウハウを蓄積できることに留まらず、進化型を開発する上で非常に重要である。2006年の会計基準の改悪により、「研究開発すればするほど損益が悪化するが、大半が損金控除されない」という、G7唯一の異常事態が発生している。
これを継続してしまった場合はJGAAPの新PLの「営業利益」へ壊滅的打撃が生じるため、IFRS18の強制適用に合わせて本制度の改正を行うべきである。

§補足A.「新公会計制度」の進展

公会計では「外郭団体」を子会社とみなして「フル連結」を適用し、「一部事務組合」を共同保有の関連会社とみなして(持分法ではなく)「比例連結」を適用するため、外郭団体や一部事務組合の経理内容が詳らかになる。よって、一部事務組合については企業会計の関連会社よりも透明度の高い会計基準となっている。

§補足B.株主総会における有価証券報告書事前開示の義務化

金融庁は国内の全上場企業約4000社に対して、「有価証券報告書」を株主総会の開催日よりも前に提出・開示するよう要請した。これは事実上の決算の早期化を意味するため、決算システムの運用改善等が求められる可能性が高いので我々システム監査人も留意が必要である。

§補足C. 外国語教育の実情

トランプ関税による新たな販路としては欧州が有力であるが、言語の壁が立ちはだかる。日本の大学教育においては複数言語の必修化が大いに必要である。

 

7.所感

協会報に毎月連載記事を執筆されている田淵氏の講演であり、最近の社会的・経済的・政治的トピックである「103万円の壁」問題や消費税減税に関する解決策を理論的な裏付けと共に提案するなど、受講者にとって大いに興味をそそられる内容の講演であったと思う。
また、税制や会計制度等の改正に関する最新動向の紹介や、中長期的な観点からの問題点の指摘等も行っていただいたが、これらの多くは企業や自治体の情報システムにも影響のある事項であることから、システム監査人にとってもぜひ知っておくべき知識だと感じた。